UNCTAD総会が閉幕=新ラウンド推進など訴え−サンパウロYAHOO!
Delegates call for trade liberalization(Seattle Post)
UNCTAD conference ends with warning over wealth gap(CHANNELNEWSASIA.COM)
 ……UNCTAD第11回総会は、「サンパウロ・スピリット」という声明を出して閉会した。この会議でもたらされた非常に大きな成果とは、「南北」間での貿易自由化や経済的支援の促進もさることながら、「南南」間の貿易活性化を目指した話し合いが始まったことらしい。
この交渉に参加している開発途上国は現在44カ国。いずれもGSTP協定(世界貿易特恵制度、貿易特恵システム)という、途上国間で特定の産品に特恵関税を掛け合うシステムに属している。この話し合いでは、それら国々での関税引き下げや貿易障壁の撤廃について、より突っ込んだ議論が行われる。新規メンバーも絶賛募集中らしい。
で、これの何が良いとかというと(以下はたぶんに私自身の現在の解釈が入っているのでご注意を)、これまで「南北」間での貿易に依存してきた途上国の輸出体制を、もう少し立場の近いもの同士交易を拡大させて、そこから富が引き出せるように、というきっかけになりうることらしい。結局「南北」間では、よく言われてきたように貿易を巡って激しい対立がある。ここにだけ途上国の生命線があったのでは、いくら各国単位で経済支援を受けても、グローバル経済の中ではジリ貧となってしまう。加えて、さらに個人的な憶測だけれど、近年のWTO交渉でにっちもさっちもいかなくなってきた「南北」間の亀裂の深さをやり過ごす手段としても有効なように思える。
19日までに出ている報道では、今ひとつこのUNCTAD総会で同時並行して話し合われていたはずのWTO関連の情報が流れていないようなので、結局それらがどこまで進展したのかは、私にはまだわからない。ただ、そのトピックに広い意味で関連しては、以下のようなコラムがある。
WTO農業交渉−5つのミステリー(山下一仁、経済産業研究所、RIETI)
 ……このコラムは、現在の日本政府の農業交渉でのあり方を論じたもの。本文の最後のほうで、「以上は交渉の現状を把握しない素人の素朴な疑問である」と書いているけれど、山下上席研究員の履歴を見ると、ウルグアイラウンド最後の年である94年には農水省ガット室長も勤めたプロである。上で挙げている中で5番目の「ミステリー」はご愛嬌としても、現在490パーセントの高関税となっているコメ輸入問題に関連して、

日本はなぜ(現在のWTO農業交渉で)上限関税に反対しつづけるのだろうか。日本が重点的に主張すべきものは、日本農業の国際競争力強化を図るためにどのようなタイプの直接支払い*1が必要かを検討した上で、それがWTO上問題なく実施できるようにすることではないのだろうか。(本文から)

というのは、非常に興味深い。私は相変わらずに通じないけれど、ウルグアイラウンド交渉が終了して今年で約10年。当時も日本のコメのありようを巡って激論が交わされたはずなのだが、この年月の間に日本の農業は、どれだけ自由化を見越した構造変換を図ってきたのだろうか。


また、このコラムでもう一つ勉強になったのは、現在のWTO交渉で農業補助金に関する話し合いはほぼ終了している、と断じている点だ。実は各種報道を読んでも、今月にいたっても農業補助金が話題の中心であるような印象を受けていた。
それら報道からは、確かにEU補助金を完全に維持する姿勢からは後退したのだけれど、具体的にどれぐらいの補助金を、いつまでに削減するか、という突っ込んだスケジュールについては、未だ交渉のさなかにあると思われるからだ。たとえば、英タイムズのWTO credibility hangs in Doha balance
ドーハラウンドの交渉スケジュールである7月にある程度交渉が妥結しなければ、以降はEUの貿易責任者であるラミー氏が退任し、米大統領選挙が本格化するため、あらゆるプロセスが中断してしまうだろうと警告している。まあ、もしかするとお隣の国から気楽な立場で釘を刺している、といった程度の話なのかもしれない。とまれ、必ずしも報道がリアルな交渉の問題点を語っているのではなくて、煙幕になる可能性もあるのかもな、と思わされた。

*1:関税で輸入品を防ぐのではなく、政府が直接農家に助成金を払って産業を保護する仕組み